2020.06.24 放送後記

2020年06月27日

※ラジオドラマの反省は次回の放送でたっぷりとします。


新連載小説「僕たちの家ではビートルズがかかる」

第一話

「佐藤栞里ちゃんってホントに性格良さそうだよね」

午前11時。僕がソファでトドになりながら『王様のブランチ』を観ていると、キッチンで洗い物をしている沙織の声が聞こえてきた。

「確かに。友だち多そー。」

「画面から人柄が滲み出てるのよ」

僕と沙織には、一緒に住み始めた頃から「テレビに出ている人の悪口を言わない」という不文律があった。もちろん、テレビを観ていて嫌な気分になることはある。テレビには、お笑い芸人や俳優、歌手、スポーツ選手や評論家など、様々な人が出ている。彼らの言動全てが、僕たちを笑わせたり、気持ち良くさせるものになるとは限らない。思わず、「今の発言うぜーな」と感じてしまうことは、ままある。

でも、テレビは出演している人の一面しか映さない。こういう発言をしたからこういう人、とは絶対にならない...僕はそう思っているから、少なくともテレビを観ながら悪口を言わないように心かげているのだが、沙織がその辺をどのように考えているのかは、よくわからない。だが、彼女も薄い液晶画面に向かって汚い言葉をぶつけることがなかった。僕は沙織のそういう一面が好きだし、これは一緒に暮らさないとわからなかったことだろう。

「滲み出てるねー。くしゃって笑った時の顔がかわいいよ」

沙織からの返答はなかった。食器をすすぐ水音が、やや強くなった気がする。いくら芸能人とはいえ、他の女性に対して「かわいい」は機嫌を損ねてしまう発言だっただろうか。

テレビは、出ている人の一面しか映さない。でも、『王様のブランチ』で笑う佐藤栞里ちゃんは、間違いなく良い人だと確信できた。こういう確信は良いのではないだろうか、という考え方は甘すぎるだろうか。

その日の晩の「ビートルズ報告会」では、この「佐藤栞里ちゃんは間違いなく良い人である件」を話した。「ビートルズ報告会」というのは、僕たちが毎日就寝前に欠かさず実施している会のことで、互いがその日一番印象的だったことを話すという、それだけのものである。さらにこの会は、沙織によるビートルズ布教時間という一面もあって、「報告」が終わると必ず彼女のチョイスでビートルズが1曲かかる。だから、「ビートルズ報告会」という名称になったのだ。彼女はビートルズの大ファンなのだが、僕は洋楽をほとんど聴かなかった。

今日はたまたま沙織も休日であり、終日一緒に過ごしたので、内容は既に彼女も知っているものとなる。そもそも、佐藤栞里ちゃんが性格良さそうであると切り出したのは沙織である。だからイマイチ盛り上がりに欠ける時間となった。ちなみに、本日の彼女の「報告」は「駅前に気が付いたら日高屋ができていた」で、こちらの話題はヒートアップした(僕は気がつかなかった)。最終的には「日高屋VSはな丸うどん」という異種混合舌戦が繰り広げられたのだった。はな丸うどん派だった僕は、日高屋推しの彼女にボコボコにされ、会が終わった。

互いの「報告」が終わると、僕はニヤニヤ笑いながらいつものように切り出した。

「今日の曲はなんでしょう」

彼女はミニコンポにCDを入れると、僕を振り返ってニコニコしながら言った。

「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ。」

今日も僕たちの家では、ビートルズがかかる。